1 遺言とは
遺言とは、被相続人(死亡した人)の最終の意思表示をいいます。
遺言と聞くと被相続人が生前に有していた財産の処分に関するものが多いかと思われますが、認知なども遺言によってすることができます(民法781条2項)。
遺言には、普通の方式と特別の方式があります。
普通の方式による遺言には、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言があります。これら以外の方法によって普通の方式による遺言をすることはできません(民法967条本文)。
特別の方式による遺言は、死亡の危険が迫っている場合など普通の方式での遺言が出来ない場合に認められるものなので、利用する機会はあまりないかと思われます。
以下では、有効な自筆証書遺言をするための注意点等について解説いたします。
2 自筆証書遺言
⑴ 要件
自筆証書遺言とは、遺言者の自筆によって作成した証書による遺言をいいます。
自筆証書遺言が有効なものとなるには、「遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。」(民法968条1項)。
もっとも、自筆証書に「一体のものとして」「添付する」財産目録については、署名押印があれば自筆は要しないものとされています(同条2項)。
ア 全文が自書であること
「自書」とは、遺言者が自らの手で筆記することをいいます。
「全文」とは、遺言の内容が記載された部分をいいます。
したがって、遺言者は、遺言書を自らの手で筆記して作成しなければなりません。もっとも、財産目録(相続財産の全部又は一部の目録)も遺言の内容の一部ではありますが、自筆証書遺言の利用を促進するため以下の要件を満たす財産目録については自書を要しないとされました。
① 財産目録が自筆証書に「一体のものとして」「添付する」ものであること
「添付する」とは、書類などに他の物を付け加えることをいうので、自筆証書に添付する財産目録は、本文が記載された用紙とは別の用紙を用いて作成する必要があります。
「一体のものとして」とは、遺言書の保管状況等から、本文の記載がある書面と財産目録の記載がある書面とが一体の文書と認められれば足り、両書面が物理的に一体である必要はありませんし、本文との契印も必要ありません。
② 各頁に署名・押印があること
財産目録の各頁には署名押印をする必要があります。ただ、これ以外には特段の様式性が要求されていないので、財産目録は、遺言者本人がパソコン等で作成したものや、遺言者以外の者が作成したものであってもかまいません。また、財産目録への押印に使用する印章は、本文が記載された書面の印章と異なってもかまいませんし、認印でもかまいません。
遺言書は、遺言の趣旨や対象財産の記載が不明確であっても、それだけで直ちに無効となるものではありません。ただ、遺言書は、相続財産をめぐる紛争を事前に予防するために作成するものなので、遺言書の本文及び財産目録の記載は、可能な限り明確な記載とすることが望まれます。
イ 自書の作成日付があること
自筆証書遺言には作成した日付を必ず記載しなければなりません。この日付も遺言者が自書する必要があります。そのため、日付スタンプ等を使用すると遺言が無効となってしまいます。
ウ 氏名を自書し押印してあること
遺言者は、遺言書に氏名を自書し、押印しなければなりません。印章は実印である必要はなく、認印や拇印、指印であってもかまいません。ただ、シャチハタなど第三者であっても容易に取得することが可能なものは、紛争の未然の防止という観点からは避けた方がよいと思います。
⑵ 自筆証書遺言の加除その他の変更方法
「自筆証書(前項の目録を含む。)中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。」(969条3項)。
自筆証書又は財産目録の訂正等は、この方式に従わないと無効になってしまいます。
たとえば、本文記載の一部を訂正する場合、該当箇所に二重線等を引き変更文言を記載するなど適宜の方法で訂正した上で訂正印を押し、本文記載書面の末尾などに「〇行目〇文字削除〇文字追加」と自書で追記して署名をする必要があります。
⑶ 自筆証書遺言のメリット・デメリット
(メリット)
自筆証書遺言は、遺言者が自ら単独で作成することが出来るため、公正証書遺言に比べ費用も安く抑えられ、手軽に作成することができます。また、公正証書遺言と異なり、他人に遺言の内容を知られないのでプライバシーも守られます。
(デメリット)
他方で、遺言書の存在を遺言者以外が知らなかった場合などは、相続人等が遺言書の存在に気が付かないおそれがあることや、偽変造のおそれ、法定の要件を満たしていないために遺言書が無効となってしまうおそれなどがあります。
もっとも、上記のデメリットは、令和2年7月10日に施行される遺言書保管法に基づく法務局における遺言書の保管制度によってある程度解消することが予想されます。
⑷ 自筆証書遺言の保管制度
この制度は、自筆証書遺言に係る遺言書を法務局で保管し、遺言者の死亡後に相続人等の利害関係人から請求があった場合に遺言書の閲覧等をさせるというものです。
遺言書の保管申請ができるのは、遺言者本人のみで代理人によることは出来ません。したがって、本人が入院中、自宅療養中等で外出が難しい場合には、この保管制度を利用できないということにもなります。ちなみに、公正証書遺言の場合は、病気等の理由で公証人役場に出向くことが困難な場合は、公証人に本人のところまで出向いてもらうことができます。
遺言書保管官は、保管の申請があった場合、保管の申請に係る遺言書が民法968条の定める方式に適合しているかについての外形的な確認、遺言者の自書であることの確認、申請者の本人確認を行うものとされています。これらの仕組みによって、偽変造や法定の要件を欠くために遺言書が無効とされるおそれはある程度避けることが可能となります。
また、遺言者の死亡後、ある者の遺言書が遺言書保管所に保管されているか否かを確認するため、誰でも遺言書保管所に対し、関係遺言書の保管の有無を証明した書面の交付を請求することができます。この請求によって、相続人等は、保管された遺言書が存在するか否かを知ることができます。
したがって、遺言者が遺言書の保管申請をしておけば、相続人等が遺言書の存在に気が付かないという事態はある程度避けることが可能となります。
3 作成に不安を感じたら弁護士に相談を!
自筆証書遺言は、手軽かつ安価で作成できる反面、要件が厳格に定められている方式の遺言なので、その作成に不安がある場合には一度弁護士に相談することをお勧めいたします。