公正証書遺言とは
公正証書遺言書とは、遺言者が公証人(※)の面前で、2名の証人の立会のもと遺言の内容を口授(言葉で話して伝えること)し、それに基づいて公証人が遺言者の真意を正確に文章にまとめ、公正証書遺言書として作成するものです。
※公証人とは実務経験を有する法律実務家(裁判官や検察官など)の中から法務大臣が任命する公務員で、公証役場で公正証書の作成などの職務を行うことを仕事とします。
以上の公正証書遺言書を作成するには、事前の準備が必要で、遺言者は前もって、下記の書類を揃えて公証人と打ち合わせをします。これによって、遺言作成日には、原案が出来上がっていますので、実際の作成は極めて簡便に行うことができます。
(準備する書類)
- 遺言者の現在の戸籍抄本
- 遺言者が持っている財産内容がわかるもの(不動産があれば登記簿謄本と評価証明書、預貯金があれば預貯金通帳のコピー)
- 遺言者の印鑑証明書
遺言作成当日は、遺言者が公証役場へ出向き、そこで証人2名の立会のもと、公証人が作成した遺言(事前に打ち合わせをしたもの)の内容を読み上げ、間違いがないかを確認し、間違いがなければ遺言者がその旨を公証人に伝え、最後に遺言者と証人の署名および押印で完成します。
公正証書遺言作成の流れ
公証役場と打ち合わせ
遺言者の希望を最大限に酌むために、公証人とは何度も打ち合わせを行い、遺言の内容を確定していきます。この打ち合わせが一番手間がかかり、かつ大事な作業になります。
→弁護士に依頼された場合には、すべて弁護士が行います。
公正証書遺言作成の日時の決定
遺言の内容が定まったら、実際に公証役場で公正証書遺言を作成する日時を打ち合わせします。
→弁護士に依頼された場合には、すべて弁護士が行います。
作成日には、遺言者は公証役場に出向いていただきます。
証人の確保
公正証書遺言の作成には、2人の証人が必要ですので、遺言作成日に公証役場で立ち会ってもらえる証人2人を確保する必要があります。下記の証人欠格者は証人になれませんので、注意してください。特に1,2,3に注意してください。
(証人欠格者)
- 未成年者
- 将来相続人となる予定の人(法定相続人だけでなく、遺言によって財産を受け取る人も含まれます)
- 将来相続人となる予定の人の配偶者及び直系血族
- 公証人の配偶者や四親等内の親族、公証役場の書記官や従業員
- 遺言書の内容が理解できない人
→弁護士に依頼された場合には、有料になりますが、弁護士の方で証人を準備することも可能です。
公証役場へ出向く
遺言作成日に証人二人とともに公証役場へ出向いて、正式に遺言の作成を行います。公証役場に出向いて手続きをするのであれば、どこにある公証役場でも受け付けてくれます。東京都にお住まいの方が、埼玉県越谷市にある越谷公証役場で公正証書遺言を作成しても全く問題ありません。通常は、お近くの公証役場を利用することになるでしょう。
→弁護士に依頼された場合には、弁護士も公証役場に出向きます。
公正証書遺言の内容確認
公証人が予め準備した遺言の内容を遺言者と証人に読み聞かせ(閲覧させて)、内容に誤りがないことを確認します。
→弁護士に依頼された場合には、予め遺言者に弁護士から遺言の内容をお知らせしておきますので、当日は単に内容を確認するだけです。
署名・押印
内容に誤りがないことが確認できたら、遺言者と証人2人が公正証書遺言に署名・押印します。
公証人の認証
公証人が、方式に従って正当に作成された旨を付記して署名・押印します。
公正証書遺言の受領
原本は公証役場で保管されますので、遺言書の正本と副本を受け取ります。
費用の支払い
公証役場に所定の費用を支払います。
公証人の手数料(公正証書遺言の作成費用)は次のとおり。
相続財産の価額 | 相続させる相続人 | 公証人手数料 |
---|---|---|
5,000万円 | 配偶者(妻・夫)のみ | 40,000円 |
5,000万円 | 配偶者3,000万円、子2,000万円 | 57,000円 |
8,000万円 | 配偶者(妻・夫)のみ | 54,000円 |
8,000万円 | 配偶者6,000万円、子2,000万円 | 77,000円 |
公正証書の準備には何日も時間がかかりますが、公証役場での作成手続きは数時間で終わります。
公正証書遺言を探したい!
公正証書遺言の保管場所
公正証書遺言は公証役場で作成された遺言で、作成した公証役場に原本が保管されています。昭和64年1月1日以降に作成された公正証書遺言であれば、遺言者の名前などのデータは、保管している公証役場に限らず、全国どこの公証役場でも検索することができます。公証役場は全国さまざまな地域にありますので、まず最寄りの公証役場に行けば、亡くなった方が公正証書遺言を作っていたかどうか、どこの公証役場で原本を保管しているかを調べることができます。
(注意)昭和63年以前に作成されたものに関しては各公証人役場内で管理していますので、亡くなった方の自宅近くの公証役場を中心に、一軒一軒問い合わせをして探すことになります。 ※作成した公証人が所属する公証人会ごとに年代の要件が異なりますので、問い合わせをする公証役場で確認してください。
公正証書遺言の閲覧手続き方法
※以下の手続きについては、閲覧前に必ず公証人役場にご確認ください。
必要資料をそろえる
- 遺言者が亡くなったことが分かる書類(戸籍謄本・除籍謄本) ※遺言者が存命中は、調べることができません。
- 閲覧する人が相続人であることが分かる書類(戸籍謄本を遺言者とのつながりが分かるように取得します。複数になることがあります。)
- 身分証明書 下記a又はb
- a:運転免許証、パスポート等顔写真入りの公的機関発行の身分証明書と認印。
- b:発行から3ヶ月以内の印鑑登録証明書と実印。
代理人でも申請できます。
上記の資料に加えて、相続人本人からの委任状等があれば代理人でも閲覧できます。
- ①相続人の遺言検索に係る委任状(相続人の実印が押印されたもの)
- ②委任者の 3 か月以内の印鑑登録証明書
- ③代理人の身分証明書(運転免許証等)と認印
費用
遺言書の検索だけであれば、費用はかかりません。
公正証書遺言があるのが分かって、その結果として内容まで分かる原本を閲覧するには原本を保管している公証役場まで行くことになります。閲覧費用は1回200円、謄本を印刷してもらうには、1枚ごとに250円です。
病床で遺言を作りたい
病床でも公正証書遺言を作れます!
公正証書遺言書を作成するためには、遺言者が公証役場へ出向くのが原則ですが、例外もあります。遺言者が長期入院中の場合や自宅療養だが身体が不自由で外出できない場合で、公証役場へ出向くことができない場合は、公証人が遺言者のもとへ来てくれて、その場で公正証書遺言を作成することもできるのです。
弁護士に依頼しましょう!
病床での遺言は、急を要する場合がほとんどですので、手際よく処理しなければなりません。作成までの手順は、すべて弁護士に依頼して任せることを強くお勧めします。弁護士は直ちにご本人と面談して、意思能力を確認し、どのような内容の遺言をしたいのか希望を聞きます。そして、その希望に沿った形での遺言の文言を公証人と協議しながら遺言書案を作成していきます。遺言当日は、公証人が遺言者のもとに出向いて、準備した遺言書の内容を読んで聞かせて、内容に間違いがなければ、遺言者に署名押印してもらい、遺言は完成します。
署名ができなくても大丈夫!
署名ができない場合でも、公証人が遺言者の署名を代筆することも、法律で認められています。
(病床で作成する場合の注意点)
病床で公正証書遺言ができると言っても、そもそも遺言者に意思能力がなければならない点に注意すべきです。公証人が話している内容を理解できるだけの、意思能力は必要です。 特に遺言書作成後数日で死亡した場合、遺言書作成当時遺言者が非常に高齢であった場合、遺言者が入院している病院で作成した場合には、意思能力が疑われ、遺言無効訴訟に発展することもしばしばありますので、注意すべきです。